【1】耳だれ 外耳道より出てくる分泌物のものを指します。一般的には外耳道炎または中耳炎が原因となりますが、湿った耳垢(耳あか)がときに黄褐色の耳だれ様になって流出することもあります。外耳炎や中耳炎は痛み・かゆみや耳閉感を伴うことが多いですが、耳だれだけでも長引くときは、抗生剤が効きにくい耐性菌がついていることがあるため、早めに受診してご相談ください。
【2】難聴 そもそも‘聞こえる’とは、耳の中に入ってきた音の振動が、内耳の音の中枢である蝸牛に伝わり、電気信号に変えられ脳へ伝わることで、‘聞こえる’となります。ところが加齢など様々な原因で音を伝えるメカニズムに異常が生じると‘難聴’となります。大きく分けると伝音性難聴(外耳から中耳伝音系までの障害)と、感音性難聴(内耳の蝸牛およびそれより中枢側の障害)と、その混合性の難聴に大別されます。そして程度から軽度難聴(25~40dB)、中等度難聴(40以上~70dB)、高度難聴(70以上~90dB)、重度難聴(90dB以上)に分けます。急性難聴は早期に治療を開始すれば治る可能性がありますが、加齢性難聴や騒音性難聴は残念ながら治療しても改善しません。また中等度以上の難聴になると聞き漏らしや聞き間違いが増えるため、補聴器の装用を勧めすることがあります。一度受診してご相談ください。
【3】耳鳴 周囲で音はしていないにも関わらず、耳や頭の中で音として感じる現象です。‘キーン’や‘ジーン’、あるいは‘セミ鳴く様な雑音’が多いです。これらを耳鳴りまたは耳鳴(じめい)といいます。正常人でも疲れたときなどに短時間で出現しますが、絶えまなく続いたり、耳鳴が大きい場合は注意が必要です。耳鳴で受診する人達の約9割に難聴が存在し、一般に耳鳴は難聴の程度に比例しやすいので、耳鳴が出現し続くときは、聴力検査を行い難聴がないかを調べます(突発性難聴、加齢性難聴など)。原因によってはめまいを伴うこともあります(メニエール病など)。近年は耳管狭窄症を合併して、耳鳴の悪化を起こし受診される人が増えています。
【4】急性中耳炎 ‘かぜ’や上気道炎にかかると、鼻やのどにいる細菌やウイルスが耳管(‘じかん’という鼻と耳をつなぐ管)をさかのぼって中耳に行き、炎症を起こすことがあります。この中耳の急性炎症を‘急性中耳炎’と言います。耳管も腫れて狭くなり、中耳に膿(うみ)が貯まりやすくなります。膿の貯留により、耳の痛みや閉塞感が現われます。発熱や頭痛を伴うこともあり、乳幼児では不機嫌となります。しかし耳痛を訴えない例もあり、見逃すと重症化することがあります(急性乳突洞炎≒耳の後ろに膿が貯まり、腫れる病気など)。最近は抗生剤を服用しても改善しない例や、感染を繰り返す例など、治りにくい子(難治例)が増加しているため注意が必要です。ちなみに、最近6ヶ月間に3回以上、または1年以内に4回以上の急性中耳炎にかかっている場合を‘反復性中耳炎’と呼びます。 治りにくい(難治化)の原因として、大きく3つ(下記)が考えられます。 ①患者側の免疫学的未成熟 成人と違って、病気に対する免疫力が弱いこと(以下にその傾向がみられます)。 ・3歳以下(特に2歳以下)の子(大人の免疫力の半分以下) ・アレルギー体質の子 (食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎を複数もつ子) ・人工栄養(ミルク)で育った子 ②感染を起こす細菌の薬剤耐性化 以前は抗生剤が効いていたのに、効きづらい細菌(耐性菌)が出現・増加するようになったこと。 ③集団保育・兄弟における起炎菌の伝播 現代は集団生活の場(保育園や幼稚園etc)が増え、子どもが病原菌の感染を受ける機会が増えたこと。 * 適切な抗生剤(抗菌薬)の正しい服用や、耳鼻科的な処置、生活環境を整えること等が大切! * 人ごみを避け自宅で安静とし、無理な旅行や登園はひかえましょう。
【5】滲出性(しんしゅつせい)中耳炎 中耳(鼓膜の奥の空間)に液体が滲出し、貯まる中耳の病気です。痛みはほとんどありませんが、‘つまった感じ’や‘聴こえにくい’などの症状が出現します。乳幼児と高齢者に多く、最近、急性中耳炎と同様に治りにくい例が増加しています。原因としてアレルギー体質、鼻炎や副鼻腔炎、アデノイド肥大など、様々な要因が考えられます。見逃されやすい病気ですが、長期間放置しておくと、将来、ゆ着性中耳炎など難治性の慢性中耳炎へ進展したり、風邪のたびに中耳炎を繰り返すなど後遺症を残すことがあります。きちんと治療し治しておきましょう。 滲出性中耳炎が起こる原因は大きく、以下の2つに分けられます。 ① 上気道の感染・炎症の波及 耳と鼻の奥(上咽頭)はつながっており、上咽頭の炎症が持続しているために、中耳に炎症が波及して起こります。乳幼児に多いです。 (例:慢性副鼻腔炎、慢性咽頭炎など) ② 耳管や中耳の換気障害(機能低下) 耳管(‘じかん’という鼻と中耳をつなぐ管)は元々、中耳と外との換気を行い清潔に保つ機能があります。その機能が何らかの原因で低下 (または狭窄)し、換気が十分行われなくなったために起こります。高齢者にやや多く、繰り返しやすい傾向あり。 (例:耳管狭窄症、アレルギー性鼻炎、アデノイド肥大、放射線治療後など) * 上気道炎の適切な治療と、根気強い耳鼻科的な処置(吸入や耳管通気処置など)が大切です! * 難治性になると、鼓膜換気チューブ挿入術が必要になることがあります! (幼児では全身麻酔が必要です) * チューブ挿入は耳管の換気機能を代償するため、中耳の滲出液の貯留を予防し、長期的には中耳の病的な粘膜が正常化することを目的に挿入します。よって約1年間挿入し、耳管機能が改善した頃に抜去します。
【6】耳あか 耳あかは耳内(鼓膜や外耳道)の皮膚の老廃物です。鼓膜や外耳道(耳あな)の皮膚も指の爪と同じように生え変わります。古くなった皮膚ははげ落ち、外側(耳の入口)付近へ自然に押し出されます。ですから、耳掃除は基本的には耳の入口だけで充分です。「耳掃除は必要ない」と言われる先生もおられますが、成長期の子どもは耳あかが貯まりやすいです。「耳が聞こえなくなった」と訴えて受診される患者さんが毎日おられますが、耳あかを除去すると「急に聞こえるようになった」という例がよくあります。個人差もありますが、成人で1回/月、小児で2~3回/月ほどの耳掃除が望ましいです。その時のポイントは ①耳の入口のみ(1㎝以内) ②耳あかを取り過ぎない(少し残す程度にとどめる) ③強くこすらない(優しくなでる) です。耳掃除に自信ない方は、‘耳掃除希望’で耳鼻科を受診されても大丈夫です。以前、中耳炎などの耳の手術を受けた方は、耳の奥に‘かさぶた’が貯まり易い傾向があります。特に症状がなくても、数か月に一度は耳鼻科を受診されることをお勧め致します。